グローバルにヘルスケアのためのインフォームド・デシジョンを可能にする
コクランは世界規模の独立した非営利ネットワークであり、健康に関する研究を収集・評価・要約し、システマティックレビューと呼ばれる研究論文として公開しています。これまで8,000編を超えるシステマティックレビューを公開するとともに、新しい研究が利用可能となるのに合わせて、それらを定期的に更新しています。コクランレビューは、人々が健康について質の高い情報に基づいた選択を下せるようにすることと、世界的な医療の改善を目的としています。
課題
対象範囲
コクランは英語から15の言語への翻訳を行っており、1,000名超の翻訳者(その大部分は医療分野の専門的なバックグラウンドを有するボランティア)のネットワークと協力しています。例えばコクラン中国が簡体字中国語への翻訳のコーディネーションを行うといったように、15のローカルチームがそれぞれの言語について翻訳者とワークフローを管理しています。健康分野において、コクランでは毎月およそ100編の新規および更新版の研究論文を発表しており、主にそれらの論文の要約を翻訳しています。論文は内部のデータベースにXMLファイルで保管されています。各チームが、それぞれの地域のコンテキストに最も関連性の高い健康分野のトピックを選択します。合計すると、15の言語にわたって最大で1,000件、約100万ワードに相当する量の健康分野の研究に関する要約を翻訳しています。さらに、Drupal CMS(コンテンツマネジメントシステム)で構築されたウェブサイトcochrane.orgも翻訳しています。
コクランはLSP(ランゲージサービスプロバイダ)でも翻訳の購入者でもなく、業界の典型的なプレーヤーではありません。そのユニークな組織構成上、翻訳システム、エディタ、ワークフロー、各種の通知は直感的かつ支援的なものであることが不可欠です。また、翻訳者に明確なフィードバックを提供するための簡便な手段を備えていることも重要です。
チームのキャパシティが限られているため、地域ごとに最も重要な健康トピックを優先して取り扱っていますが、例えばマラリアが一般的な地域とそうでない地域があるといったように、世界各地で優先課題が異なります。従って、すべての言語チームがすべてのソースコンテンツにアクセスできる必要があるものの、全チームが実際にすべてのコンテンツを翻訳するわけではありません。これはまた、長期にわたって、あるいは12カ月後に自動的に削除されるまで、Phrase TMS上に多くのコンテンツが翻訳されないまま留まり続けることを意味します。
その他の課題
- ボランティアの中には定期的に大量の翻訳を行っている人もいれば、翻訳する量が少なく、割り当てられた作業を完了するまでに長い期間を要する人もいる。
- コクランのコンテンツは非常に専門性が高く、健康分野を専門とするプロの翻訳者でさえ、正確に翻訳できるようになるためには訓練を必要とする。
- 翻訳者は、断片的なセグメントだけではなく、完全なまとまりのある文書を正確な順番で参照し、コンテキストを把握する必要がある。
- 翻訳作業は分散化されており、言語ごとに各地域で管理されるため、翻訳者およびプロジェクトの管理権限は言語ごとに限定される必要がある。例えば、フランス語プロジェクトマネージャはタイ語のコンテンツやユーザーへのアクセスを有するべきではない。
解決策
充実した機能を無料で提供-Phrase TMS
全体として、コクランは翻訳管理システムについて大きな柔軟性を必要としています。ここでPhrase TMSがその力を発揮します。コクランはインテグレーションと自動化を駆使し、翻訳ワークフローを最適化。6週間にわたる開発を経て、以前のソリューションのAPIセットアップをもとに3つのインテグレーションを構成しました。
研究論文の統合
ボリュームが最も大きいのは研究論文のインテグレーションです。コクランは内部データベースとPhrase TMSをREST APIで連携させています。英語論文が新しく発表または更新されるたびに、XMLソースファイルが地域ごとにPhrase TMSに自動的に送信されます。言語ごとに1つのプロジェクトが作成され、プロジェクトへのアクセスはビジネスユニット機能を通じて制限されるため、プロジェクトマネージャには各自の言語のプロジェクトしか表示されません。コクランはPhrase TMSでプロジェクトテンプレートを使用し、どの地域で論文のどのセクションを翻訳すべきかを指定しています。また、XSLコンテキストを送信し、プロジェクトテンプレート機能内の他の設定も利用しています。論文をシステム内に戻すには、ウェブフックでジョブステータスの変更をリッスンします。最後のワークフローステップでジョブが完了すると、内部データベースに送り返され、自動的に公開されます。
ウェブサイトcochrane.orgのインテグレーション
ウェブサイトのインテグレーションも、研究論文の構成と同様です。コクランはDrupal CMSとPhrase TMSをREST APIで連携させており、ここではXMLおよびJSONファイルを利用しています。
さらに、Drupalで英語ウェブページが公開または更新された際には、英語のソースファイルをすべてまたは一部の言語についてPhrase TMSに送信するカスタム機能をウェブエディタに追加しています。ここでも、ジョブを言語ごとに区別し、ウェブフックでジョブステータスの変更をリッスンし、完了したジョブをフェッチします。
ユーザーのインテグレーション
コクランではすべての作業者がコクランアカウントを所有しており、コクランにおいて複数のソフトウェアで行うすべての活動についてそのアカウントを使用します。コクランは内部データベースとの間で、シングルサインオンを利用したAPIコネクションを構成しています。また、URL http://memsource.cochrane.orgを通じたカスタムログインも設定していて、ユーザーはここからコクランアカウントを利用してPhrase TMSにログインできます。Phrase TMSアカウントが作成されれば、コクランアカウントの詳細情報に基づいてロールや言語の割り当て・更新が行われます。
機械翻訳
すべての言語チームが、それぞれのワークフローの一部として機械翻訳(MT)へのアクセスを有しています。コクランはDeepLをその対応言語すべてで使用しています。他の言語についてはGoogle Translateを使用していますが、Google Translateに代わるカスタムMTオプションその他のMTサービスを検討しています。一部の言語では常にMTをベースとし、それにポストエディットを加えていますが、MTを使用するか否かの判断をボランティアに一任している言語もあります。翻訳に誤りがあれば、健康に関する不正確な情報を提供してしまう恐れがあるため、翻訳が正確であることは極めて重要です。そのため、コクランがMTを編集せずに公開することはありません。
Phrase TMSは柔軟性が高く、極めて多様なユースケースとビジネスケースに対応できる機能を備えています。機能は絶えず進化していますし、優れたサポートに加え、親切なスタッフがこちらのニーズの把握に努め、最良のソリューションの発見を支援してくれます。
結果
プロジェクトマネージャーの作業負担を軽減
Phrase TMSによって、プロジェクトマネージャと翻訳者はマニュアルで文書を送信する必要がなくなり、コクランはデータ処理の完全な自動化を実現しました。これは大きなボリュームを管理するうえで重要であり、PMの作業負荷を軽減します。ファイルのフォーマットと処理に関する問題も軽減されました。クラウドのおかげで、プロジェクトマネージャと翻訳者がほとんどの作業を同じ場所で行うことができ、Phrase TMSから離れる必要がほとんどありません。全体として、Phrase TMSは翻訳メモリ、機械翻訳、そしてデータ処理の自動化によって翻訳プロセスを迅速化させ、コクランはより多くの翻訳をより短期間で行えるようになりました。