ソフトウェアローカリゼーション ローカライゼーション戦略
マーケティング担当者が知っておくべきアプリローカリゼーションの基本(パート 2)

「アプリローカリゼーションの基本」シリーズのパート2では、アプリストアのローカリゼーションと最適化について詳しく解説します。また、品質とコラボレーションを強化し、ローカリゼーションプロセスをより効率化するツール選定のポイントも紹介します。
アプリストアのローカリゼーション (ASO):アプリストアでの可視性の向上
数百万ものアプリが存在するアプリストア(iOS App Store だけでも 200 万以上)は、非常に競争の激しい市場です。
アプリをユーザーに見つけてもらうためには、新しい市場でリリースするだけでは不十分で、アプリストアの最適化(ASO, App Store Optimization)が不可欠です。
ASO は アプリストア向けの SEO と考えるとわかりやすいでしょう。SEO はウェブサイトの検索順位を向上させるための手法ですが、ASO はアプリストア内での可視性、ランキング、ダウンロード数の向上を目的としています。
ASO の目的は、アプリが関連キーワードで上位に表示され、ローカルユーザーにとって魅力的なものになることで、オーガニックダウンロードを増やすことです。これを実現するには、マーケティング担当者が、ターゲットユーザー向けにキーワード、タイトル、説明文、ビジュアル(スクリーンショット、プレビュー)などの重要なメタデータを最適化する必要があります。
アプリストアでの可視性が向上することで、オーガニックダウンロードが増え、ユーザーがより簡単にアプリを見つけられるようになり、エンゲージメントの向上にもつながります。
グローバル市場向けのアプリストアでは、アプリストアのローカリゼーションとは、アプリのメタデータや説明文をターゲット市場の言語や文化に合わせて最適化するプロセスを指します。
アプリストアのローカリゼーションの成功には、国ごとのユーザー行動、言語、文化の違いを理解することが不可欠です。これは、ターゲットユーザーにとって魅力的なアプリストアページを作成し、ダウンロードを促進するために欠かせない要素となります。
新しい市場向けにアプリを翻訳・ローカライズする作業は、アプリストアローカリゼーションの基盤となります。そして、次のステップとして、アプリのタイトル、サブタイトル、説明文、スクリーンショット、プレビュー動画、キーワードを調整し、現地ユーザーにとってより魅力的な内容にすることが求められます。
言語、文化的ニュアンス、現地ユーザーの嗜好を考慮して最適化されたストアページは、エンゲージメントとダウンロード数の増加につながる可能性が高くなります。 そのため、アプリストアの最適化は、アプリローカリゼーションにおける重要な要素の一つです。
主なASOツールと指標
ASOの取り組みを効率化し、成果を向上させるには、専門ツールを活用するのが有効です。これらのツールは、市場のインサイトを提供し、最適化の精度を高めるのに役立ちます。代表的なASOツールには、次のようなものがあります。
- Sensor Tower: 市場データの分析、キーワードリサーチ、競合分析を通じて、最適なキーワード選定やアプリのパフォーマンス監視をサポートします。
- Mobile Action / TheTool:アプリストアのランキングを追跡し、関連キーワードを特定。さらに、キーワードの検索トラフィックや競合状況を分析し、改善策を提案します。

ASO成功のための重要な指標
ASO に初めて取り組むマーケティング担当者にとって、適切な指標を追跡することは、戦略を洗練し、その効果を測定するうえで不可欠です。
監視すべき主なASOのパフォーマンス指標:
- コンバージョン率:アプリストアのページを閲覧した後に、実際にアプリをダウンロードしたユーザーの割合を測定します。ビジュアルや説明文を最適化することで、この数値を向上させることが可能です。
- リテンション率(継続率):ダウンロード後もアプリを使い続けるユーザーの割合を示す指標です。これにより、ローカリゼーションがどの程度ターゲットユーザーに受け入れられているかがわかります。
- キーワードランキング:異なる地域(ロケール)におけるターゲットキーワードのランキングを追跡し、マーケティング担当者が適切にキーワードを調整してアプリの可視性を維持できるようにします。
ASO はアプリのダウンロード数を増やす強力な手法ですが、継続的なデータ分析と最適化が必要です。適切なツールを活用し、ASO 指標を正しく理解することで、マーケティング担当者はアプリストアのページが各市場のターゲットユーザーを効果的に惹きつけ、エンゲージメントを向上させるよう最適化できます。
アプリストアの掲載情報をローカライズする方法
( アプリストアのローカリゼーションの実装に関する記事では、より技術的な視点から、プロセスをステップごとに解説しています。)
ターゲット層とキーワードを調査する
- アプリのローカライズ時に実施した調査は、アプリストアの最適化にも活用できます。これにより、関連キーワードを特定し、それに応じてメタデータや説明文を最適化できます。
- ローカルの検索パターンや言語のニュアンスを考慮し、キーワードを翻訳・調整します。また、キーワードが現地の言語で適切かつ頻繁に検索されているかを確認することが重要です。
アプリのタイトルをローカライズする
- 主要なキーワードを含めつつ、アプリの機能やメリットを分かりやすく伝えるタイトルを作成します。
現地のユーザーにとって魅力的で、直感的に理解しやすいタイトルにすることが重要です。 - サブタイトルもローカライズし、追加のキーワードを活用しながら、アプリの主要なセールスポイントを強調します。
アプリの説明をローカライズする
- ターゲット市場のユーザーに響く、説得力のある魅力的なアプリの説明を作成します。アプリの主要な機能、メリット、独自の強みを強調し、現地ユーザーの興味を引く内容にすることが重要です。これらの説明文には、検索の可視性を高めるためにローカライズされたキーワードを含める必要があります。検索での可視性を高めるため、ローカライズされたキーワードを適切に組み込みます。ただし、キーワードの詰め込み(キーワードスタッフィング)を避け、読みやすさを損なわないようにすることが大切です。
- キーワードだけでなく、トーンやスタイル、コンテンツも現地の文化に適応させ、必要に応じて現地の事例や参考情報を取り入れると効果的です。
画像をローカライズする
- アプリのスクリーンショットをローカライズし、キャプションを翻訳して、現地ユーザーにとって重要な機能や特徴を強調します。
- アプリのアイコンが文化的に適切で、ターゲット市場に合ったデザインになっているかを確認し、現地ユーザーに訴求するプロモーション動画を制作します。
- ターゲット市場のニーズに合ったビジュアルを選ぶために、異なる市場でA/Bテストを実施し、どのバージョンが最も高いパフォーマンスを発揮するかを分析することが重要です。
アプリ名をローカライズする
ローカライズされたアプリ名は、ブランドの一貫性を保ちつつ、ターゲット市場のユーザーにとって理解しやすく、魅力的なものであることが求められます。
レビューと評価
現地ユーザーからのレビューと評価は、アプリのダウンロード数を増やす強力な要因となり、ランキングにも大きな影響を与えます。ユーザーに自国語でレビューや評価を投稿するよう促し、フィードバックに適切に対応することで、ユーザーの意見を大切にしていることを示します。
アプリのアップデートをローカライズする
- アプリの更新時には、ローカライズされたリリースノートを作成し、新機能、改善点、バグ修正などの情報をユーザーに伝えます。
- 定期的なアップデートを実施し、アプリが継続的に改善・サポートされていることをアピールすることも重要です。
パフォーマンスを追跡し最適化する
- ローカライズされたアプリストアの掲載情報について、ダウンロード数、エンゲージメント、コンバージョン率、リテンション率などのKPIを継続的に監視します。
- パフォーマンスデータやユーザーフィードバックを分析し、ローカライズ戦略を最適化します。
アプリのローカリゼーションツール
アプリのローカリゼーションには、慎重な計画と細部への配慮が欠かせません。しかし、適切なローカリゼーションツールを活用することで、マーケティング担当者の負担を軽減し、作業の効率化を図ることができます。
ローカリゼーションツールにはさまざまな種類があり、それぞれの機能が異なります。そのため、最適なツールを選ぶ際には、以下の重要なポイントを考慮することが大切です。
- コンテキスト内編集:コンテキスト内編集機能を備えたツールを選ぶと、翻訳者が実際のUI上でテキストを確認できるため、エラーを削減し、文脈に即した適切な翻訳を実現できます。特に、文字数制限やビジュアルレイアウトが重要なモバイルアプリにおいて、この機能は非常に有用です。
- 翻訳メモリと用語集:翻訳メモリは、過去に翻訳されたフレーズを保存し、一貫性の向上や翻訳作業の効率化に貢献します。また、用語集を活用することで、ブランドのトーンやメッセージを統一し、重要な専門用語を正確にローカライズすることが可能になります。
- 自動化されたワークフローとタスク管理:タスクの割り当て、通知、進捗管理をサポートする自動化ワークフローを備えたツールを選ぶことで、管理負担を大幅に軽減し、ローカリゼーションの品質向上に集中できます。
- 機械翻訳(MT)とAIによる翻訳精度の向上:多くのツールでは、初期翻訳のスピードを向上させるために機械翻訳を提供しています。さらに、Phraseのような高度なAIによる言語品質評価機能を活用することで、機械翻訳の精度を向上させ、人間のレビューと組み合わせることで高品質な翻訳を実現できます。
ローカリゼーション管理
- ユーザーのアクセス権:社内チームと外部ベンダーを含む複数のユーザーを、異なるアクセスレベルで簡単に管理できるツールを選択することが重要です。
- タスクの作成と進捗管理:ローカリゼーションプロセスでは複数のタスクが発生するため、タスクの作成や進捗管理がスムーズに行えるツールが不可欠です。タスクの自動割り当てや進捗通知を備えた機能を活用することで、ワークフローを効率化できます。
- コラボレーション:チームメンバー間の円滑なコミュニケーションとコラボレーションをサポートするツールを選びます。Slack などのツールと連携できる機能があると効果的です。
翻訳品質
- 翻訳メモリ:翻訳メモリは、承認済みの翻訳と原文をデータベース化し、一貫性と品質を維持するのに役立ちます。翻訳の効率化と精度向上のため、堅牢な翻訳メモリを備えたツールを選びましょう。
- 用語集:ブランドの一貫性を維持するため、主要な専門用語やスタイルガイドを登録できるツールを選択します。
- コンテキスト翻訳:コンテキスト内編集機能を備えたツールを選ぶことで、翻訳者は実際のアプリ画面上でテキストの表示場所を確認でき、正確かつ適切な翻訳が可能になります。
市場投入までの時間
- 早期統合:アプリ開発の初期段階からローカリゼーションツールを統合することで、デザイナーと翻訳者が並行して作業でき、後から発生するローカリゼーションの問題を回避できます。たとえば、UX/UI デザインを柔軟に保ち、ターゲット言語ごとの調整をスムーズに進めることができます。
- デザインツールとの互換性:ローカリゼーションツールが Sketch や Figma などのデザインソフトウェアと互換性があるかを確認しましょう。翻訳者とデザイナーのワークフローがスムーズに連携できるようになります。
開発者向けの機能
開発チームにとって、ローカリゼーションツールが既存の開発パイプラインとシームレスに統合されることは重要です。特に、アジャイル開発を採用している場合、この統合がスムーズであることが求められます。以下に、ローカリゼーションツールを開発パイプラインに統合する際のベストプラクティスとヒントをご紹介します。
- 技術チームを巻き込む:アプリのローカリゼーションツールは、開発者の作業をサポートし、生産性を向上させるものでなければなりません。そのため、導入を成功させるには、最初の段階から技術チームを意思決定プロセスに参加させることが重要です。
- 技術的な統合:優れたローカリゼーションツールは、標準的で広く使用されている開発ソフトウェアやアプリと容易に統合できる必要があります。
- ソフトウェアの統合:GitHub(ファイルリポジトリ)や Jira(バグ追跡ツール)と統合できるかを確認し、不具合管理とローカリゼーションワークフローの効率化を図ります。
- CI/CDパイプラインとの統合:Jenkins、CircleCI、GitLab CI などのCI/CDパイプラインと統合できるツールを選ぶことで、翻訳が完了次第、更新を自動化できます。これにより、開発プロセスを中断することなく、新しい言語バージョンのテストとリリースがスムーズに進行します。
- ソース管理の統合:GitHubやBitbucketなどのGitリポジトリと統合できるツールを選ぶことで、ローカリゼーションファイルのバージョン管理が容易になります。これにより、開発者は新しい翻訳を迅速にコードベースへ取り込み、バージョン間での一貫性を維持できます。
- デザインツールとの互換性:ローカリゼーションツールが Figma、Sketch、Adobe XD などのデザインソフトウェアと互換性を持っていると、よりスムーズな開発プロセスが実現します。この互換性により、デザイナーは異なる言語に対応するUIレイアウトを作成しやすくなり、ローカライズ後のテキストオーバーフローやレイアウトの崩れを回避できます。
まとめ
アプリのローカリゼーションは複雑で時間のかかるプロセスになり得ますが、適切な手順を慎重に実行し、重要なポイントに注意を払うことで、新しい市場でのアプリのパフォーマンスを最大限に向上させることができます。
このプロセスを成功させるには、翻訳の正確性と品質を確保しながら、チーム間のコラボレーションを強化し、市場投入までの時間を短縮することが重要です。また、現地ユーザーに最適な形でローカライズを行うためには、アプリローカリゼーションツールの活用が欠かせません。
深掘りする
ソフトウェアローカリゼーションの完全ガイド
継続的ローカリゼーションとは、翻訳プロセスをアジャイル開発に組み込み、途切れることなく多言語コンテンツを提供できるようにすることです。詳しくは、ぜひガイドをご覧ください。